車庫入れという「特殊技能」

私たちは、ご高齢者のお宅にお弁当を運ぶのがお仕事ですので、配達中にいろいろな場面に出くわすことがあります。

「いや、配達ではなくとも、いろいろな場面には出くわすでしょ?」

そんな意見もあろうかと思いますが、

まあ、それはさておき、

今回は、そんな日常の中での出来事について書いてみたいと思います。



配達中にいろいろな家を見ていると、「けっして広くはない車庫に、ミニバンが見事にぴっちりと収められている家」や、

「家の前に上手に縦列駐車されている家」などを見かけることがあります。

毎日、自分の家の車庫に出し入れする中で、困難に見えるような車庫入れも、軽くこなせるようになっていったのでしょう。

これも「特殊技能」といえるのではないでしょうか。


そんな事を考えながら市街地を走っていると、前方で今まさに車庫入れをしようとしている車両に出くわしました。

慎重な人のようで、かなりゆっくり目の動作でバックしていく。

私は相手に対してプレッシャーにならないように、5mほど手前で停車して待つことにした。

すると、車両が3分の1ほど車庫に入ったところで、動きが止まりました。

「何だろう?」

しばらくして、車庫から車が出てきて、再び車庫へ向けて進入を開始。

「ああ、少し角度が悪かったのかな」そう思い、待つことにしました。

しかし、また3分の1ほど入れたところで動きが止まり、車庫から車が出てくる。

そして、今度は助手席から初老の女性が下りてきて、その車の前に立ち誘導し始めました。

運転席の男性の年齢から推測すると、おそらく奥様なのだろう。

「もうちょっと右だよ! 右だよ! 違うよ! もうちょっと右!!」

「ああ、これで大丈夫かな。ご主人、あまり運転に慣れていないのかな・・・、ハハハ 💧」私はそう思いながら待つことに。


しかし、3分の1ほど入ったところで、また止まった。


「え?」

「まさか・・・。」


「ああ! ダメだよ! 右だってば! ああ、もう一回前に出して!」と奥様。


「ええ💦 ダメだったのか・・・。」

少しイラっとしたが、ここでクラックションなど鳴らそうものなら、焦ってしまって、余計に入らなくなってしまう。ここはじっと忍耐です。

車はいったん前に出て、再びチャレンジします。

奥様の誘導は続きます。

「そうそう! 右! 右! もうちょっと右! そう! そう!」

奥様の「そう!」のセリフが前回に比べて、あきらかに多い

「いい感じだ」

「よし!これはいける」

そう思った その時、




「スト~~ップ!!」

奥様の鬼気迫る声が、あたり一面に響き渡った。

「まさか・・・、」

やはり、3分の1ほど収まった時点である。

そこで止まった。

「あ~、ダメ、もう一回前!」と奥様が言う。



「ウソでしょ・・・。」


私は配達中という事もあり、「これ以上は待てない。別の道を通って目的地へ向かおう」そう判断をした。

しかし、あいにく今いる道はUターンできるほど道幅は広くない。

仕方がなく、入ってきたところまでバックで下がり、なんとか別の道に向かうことが出来た。

少しイラつきはしたが、クラクションなど鳴らさずに、静かにやり過ごすことが出来た自分を褒めてあげたい。

その場を離れると、少し心に余裕が持てるようになってきた。

そうだよ・・・、よく考えてみたら、あのご主人は普段は運転していなくて慣れていなかったのかもしれないし、

もしかしたら第2の人生に向けて、免許を取ったばかりなのかもしれない。

思い返してみれば自分自身だって、免許の取りたての時の運転はそう褒められたもでもなかったはずだ。

そんな事を考えていると、ご主人に対して少しエールを送ってあげたい。そんな気持ちにもなってきた。


配達は少し遅れはしたが、問題なくお客様に届けることが出来た。

そして、先ほどの道まで戻ってきたときに、

まさかの光景を目にした。





「もう少し右だよ! 右~!」

「!!」

「・・・。」



「まだやっている・・・。」


おそらく、私が配達をして引き返してくるのに、少なくとも10分は経過している。

こんなに駐車場に収まらない車は見たことがない。

ある意味、これも「特殊技能」だ。

そして、奥様の忍耐力も半端ではない。

先ほどから一切進歩しないご主人に対して、淡々とナビゲートを行っている。

もし、お子様がいらっしゃるのならば、立派に成人されたに違いない。何故なら、このような母親のもとで、道を外すとは考えられないからです。

しかし、今回はご主人の話。

もしご主人が、第二の人生を楽しむために「運転」を試みているのだとしたら、

趣味など、他に「囲碁」や「絵」や「登山」や「釣り」など何でもあります。

運転の才能がこれほど無いという事は、他にとんでもない「才能」が眠っているという事でもある。

だから「運転」は、

選択肢の中から外すことをお勧めしたい。

私はそう思いながら、またバックで入ってきた路地まで戻り、迂回をして次の目的地へと向かった。

でも、

そんな、がんばってる仲の良さそうな2人の姿は、なんだか幸せな気持ちにもさせてくれました。

たまには、ゆっくりめに時間を使ってみるのも、いいかもしれません。( *´艸`)

おかげで、とても良い1日になりました♪

それではまた!